「意味がない」と思って手放したものが、後になって大事だったと気がつく… そんな経験は、誰にでもあるのでは? 「無用の用」という言葉には、そんな気づきを促す東洋の思想が込められています。言葉の意味や成り立ちをたどってみると、現代の私たちにとっても参考となる考え方に触れられますよ。
がんばっているのに空回りしている気がするとき。うまくいかずに立ち止まりたくなるとき。そんなときにこの言葉を思い出すと、見える景色が少しだけ変わるかもしれません。どうぞ、最後まで読んでみてください。
「ムダ」の中にこそ、本当の価値がある?「無用の用」とは
まずは、「無用の用」について、読み方と意味を確認しながら、古くから語り継がれてきた考え方を見ていきます。
「無用の用」読み方と意味
「無用の用」は「むようのよう」と読みます。辞書で意味を確認しましょう。
むよう‐の‐よう【無用の用】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
《「荘子」人間世から》一見無用とされているものが、実は大切な役割を果たしていること。不用の用。「―をなす」
「無用の用」は、中国の古典『荘子』に登場する表現で、一見役に立たないと思われているものが、実は大切な働きをしていることを意味します。
目に見える効率や結果だけにとらわれず、時間をかけて見えてくる価値や、見落とされがちな役割に目を向ける。そんな考え方が、この言葉に込められています。

「無用の用」の由来は?
「無用の用」という言葉は、『老子』や『荘子』に見られる、道家思想に由来します。一見すると何の役にも立たないように思えるものが、実はとても大切な役割を果たしている、という考え方です。
例えば、車輪は回転することで役立ちますが、その機能を支えているのは、実際には使われていない轂(こしき、車輪の軸を受ける丸い部分のこと)です。また、人が大地に立って歩けるのは、踏みしめていない「まわりの空間」があるからです。このように、「無用」に見えるものこそが、実は「用(役立つ)」を成り立たせていると説かれています。
日常の暮らしにおいても、「これは使えない」と決めつけて切り捨ててしまうのではなく、その人や物に合った場所でこそ生きる役割があることを忘れてはいけないと教えてくれているかのようですね。
参考:『日本大百科全書』(小学館)
「無用の用」の類語
「無用の用」と似た表現にも目を向けることで、理解がいっそう深まりますよ。考え方を広げ、実際に使える場面をさらに増やすことにも繋がります。
「無駄方便(むだほうべん)」
一見、無駄に思える言葉や行動であっても、実は何かの手段として役立つことがある、という考え方です。「無用の用」と同じく、“無駄”や“不要”とされがちなものの中に、意外な価値や効用が隠れているという視点が込められています。

「縁の下の力持ち」
「縁の下の力持ち」は、目立たない場所で力を尽くし、苦労している人を表現する言葉です。十分な働きがあるのに、その価値が表に出にくい点が、「無用の用」と似ている部分です。
評価されにくいが、欠かすことのできない存在。それがこの言葉に込められています。
「風が吹けば桶屋が儲かる」
「風が吹けば桶屋が儲かる」とは、「原因と結果の繋がりが見えにくい例」を意味することわざです。ある出来事が別の場面で重要な結果を生むことがある、という繋がりは、「無用の用」に通じる部分があります。
参考:『故事俗信ことわざ大辞典』(小学館)
日常でどう使う?「無用の用」の使い方と例文
ここからは、日常の中で「無用の用」が当てはまる場面を見ていきましょう。
「ぼんやりと過ごした休日も、無用の用として心と体を整えるために大切だ」
「何もしていない」「生産的でない」と感じる休日の過ごし方も、実は心と体を整え、回復するための時間になっている、という内容ですね。一見するとムダに思える行動や物事が、じつは支えになっている。そんな気づきを促すのが「無用の用」です。

「不要だと思って捨てかけた古いノートを読み返してみたら、いま直面している問題のヒントがそこに書いてあった。まさに“無用の用”とはこのことだと実感した」
いったん「もう使わない」と判断して捨てかけたノートが、時間が経って、思いがけず役立つ場面が訪れました。まさに「無用の用」を体現するような出来事ですね。不要と思われたものが、後になって思わぬ価値を持つことがある─そんな状況の変化による“価値の再発見”に気づかせてくれる一例といえます。
最後に
「無用の用」は、すぐに結果を求めがちな現代の私たちに、違った角度からの気づきをもたらしてくれます。「無用の用」が表すのは、「役に立つかどうかだけで判断しない余白を持つ」こと。この考え方は他人に向ける視線を柔らかくするだけでなく、忙しさに埋もれがちな自分自身を労わり、励ますことにも繋がるかもしれませんね。
TOP画像/(c) Adobe Stock