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「彼処」という熟語を見て、サラッと読める人は少ないかもしれません。また、「此処」「其処」との違いに戸惑う方もいるのではないでしょうか?
そこで、この記事では「彼処」の意味と使い方、関連する表現について、順を追って紹介していきます。
「彼処」とは?|読み方と基本の意味を確認
まずは、「彼処」の読み方と基本的な意味を見ていきましょう。

「彼処」の読み方と意味は?
「彼処」は、「あそこ」と読むのが一般的です。このほか、「あこ」、「あしこ」、「あすこ」などという読み方もありますが、現在ではあまり用いられません。「かしこ」という読み方については、後述します。
ここでは、「あそこ」について、辞書で意味を確認しましょう。
あそ‐こ【▽彼▽処/▽彼▽所】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[代]
1 遠称の指示代名詞。話し手と聞き手の双方が承知している場所や状況、人などをさす。
(ア)あの場所、または、例の場所。あすこ。「―に見える店」「また―で待ってるよ」
(イ)あのような程度。あれほど。「―まで仲が悪いとは思わなかった」
2 三人称の人代名詞。あの人。彼。
「此の事―と少将ともろ心に」〈宇津保・嵯峨院〉
意味としては、話し手・聞き手の両方から離れた場所を指します。例えば、「彼処に咲いている花がきれいですね」と言うときは、自分や相手のすぐそばではない、少し離れた場所を示しています。
「彼処(あそこ)」の使い方を例文で確認
会話や文章の中で「彼処」をどのように使うか、具体的な例文を通して確認してみましょう。
彼処にあるベンチで少し休みましょう。
この文では、「彼処」は話し手と聞き手の両方からやや距離のあるベンチの場所を指しています。
彼処まで歩くのは少し遠いですね。
「彼処」は、目的地を示すときにも使われます。相手と場所を共有している場面で使うと自然です。
「此処彼処」、「何処も彼処も」の意味と使い方
「彼処(かしこ)」と読む場合は、他の指示代名詞と組み合わせて使われることが多いでしょう。ここでは、「此処彼処(ここかしこ)」や「何処も彼処も(どこもかしこも)」について、詳しく見ていきます。
「此処彼処」
「此処彼処」の意味を辞書で確認します。
ここ‐かしこ【×此▽処▽彼▽処】
[代]指示代名詞。こちらやあちら。あちこち。ほうぼう。「毎日、―を遊び歩く」
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
「此処彼処」は、あちこち、いろいろな場所という意味になります。「此処彼処に落ち葉が積もっている」というように使います。

「何処も彼処も」
「何処も彼処も」の意味も辞書で確認しましょう。
どこも‐かしこも【▽何▽処も▽彼▽処も】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[連語]どの場所と限らず、全体にわたっているようすを表す。どこもかも。「―桜が満開だ」「―傷だらけだ」
「何処も彼処も」は、場所を限定することなく、全体にわたっていることを表します。「何処も彼処も混雑している」と言うと、どの場所もにぎわっているという意味になりますね。
「彼処」と、「此処」・「其処」の違いを確認
「彼処」に似た言葉として「此処」や「其処」があります。それぞれの違いを整理して見ていきましょう。
「此処」との違い
「此処」は、「ここ」と読みます。辞書では以下のように説明されています。
こ‐こ【×此▽処/×此▽所/×此/▽是/×爰/×茲】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[代]近称の指示代名詞。
1 話し手が現にいる場所をさす。「私の生家は―からそう遠くはない」
2 話し手や周囲の人が現に置かれている状況や程度、または局面をさす。「事―に至ってはもう手の打ちようがない」「―まで言っても、まだ分かってくれないのか」
3 現在を中心としてその前後を含めた期間をさす。
(ア)今まで。「―一、二年というもの、病気ばかりしていた」
(イ)これから。「―数年で街もすっかり変わるだろう」
4
(ア)話し手が、自分をへりくだっていう。この身。わたくし。
「―にも心にもあらでかく罷るに」〈竹取〉
(イ)話し手の近くにいる人を、軽い敬意を込めていう。こちらの人。あなた。
「―に御消息やありし。さも見えざりしを」〈源・紅梅〉
「此処」は、話し手が今いる場所や、その人の立場・状況を指す言葉です。これに対して「彼処」は、「話し手・聞き手の双方から離れた場所」を示します。
つまり、「此処=自分に近い場所」、「彼処=自分からも相手からも離れた場所」という関係にあります。

「其処」との違い
「其処」は、「そこ」と読みます。辞書には、次のように記されています。
そ‐こ【×其▽処/×其▽所】
引用:『デジタル大辞泉』(小学館)
[代]
1 中称の指示代名詞。聞き手に近い場所、また、聞き手と話し手の双方が承知している場所・事柄をさす。
(ア)その場所。「―にある袋」
(イ)その点。その事。「―がむずかしいところだ」
(ウ)その局面。「―でベルが鳴った」
(エ)その程度。それほど。「―まで言うなら仕方がない」
(オ)あなたのところ。
「―にこそ多くつどへ給ふらめ」〈源・帚木〉
2 二人称の人代名詞。おまえ。そなた。
「―は今年何歳になりおる」〈魯庵・社会百面相〉
3 不定称の指示代名詞。漠然とある場所をさす語。どこ。どこそこ。
「思ふどち春の山辺にうちむれて―ともいはぬ旅寝してしか」〈古今・春下〉
「其処」は、主に聞き手に近い場所や話題となっている場所・事柄を指します。例えば、「其処に置いてある書類を取ってください」のように、聞き手に近い位置を示したり、「其処が問題なのです」のように、話題のポイントを指すときに使われます。
一方、「彼処」は聞き手・話し手のどちらからも離れた場所や人を指します。例えば、「彼処に見える山が目的地です」のように、物理的・心理的な距離を置いた対象に使われます。
「彼処」の英語表現は?
「彼処」の英語表現として一般的に用いられるのは、“there” です。話し手と聞き手の双方から離れた場所を指す際に使われる単語で、「彼処」とよく対応します。
例文:Let’s sit over there.
(彼処に座りましょう)
例文:I saw him standing there.
(彼処に彼が立っていました)
“there” は、聞き手と話し手が共に認識している場所、または遠くにある場所を指すのに適した表現です。
最後に
日常において「彼処」という漢字表記を目にすることはあまりないかもしれません。しかし、知識があることで、読み手や聞き手への印象が少しだけ深くなる言葉の一つかもしれませんね。
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